フランスとインド (一)

◇旅のあとさき
旅から帰ってからパリの地図をじっと眺めています。
あの時歩き回ったのはどの辺りなんだろう、あの建物は何だったんだろう、あの公園はどこだったんだろう。それが知りたくて。
旅の前も最中も地図なんてほとんど見なかったのに。
この冬、夫のひろしさんとフランスとインドに三週間の旅をしました。
そのことを書いておくことはもう一度頭の中で旅ができるようなことでもあり、何かのメッセージに気づけることのような気もします。
書くことは自由に散歩することにも似ていて、でも、翼を持っているようにもっと自由。
帰って来てしばらく、ときどき外国にいる夢を見ました。私はどこか外国にいて、船に乗っていたりする。朝目覚めるとその内容は忘れてしまっているのだけど、何かその場所の密度みたいなものは残っていて、不思議な満たされたような感覚がしました。
昨年、フランスに行ってきた友人をわが家にお招きして、「おでんとフランス」という会をしたずっと前から、こんな妄想がありました。
フランスのどこかの女の子の部屋に私の作った時計が飾られていて、時間を刻んでいる…
そのイメージは何回も浮かびました。
それで、時計を持ってフランスに行ってみたいと漠然と思ったのです。
特に事前に誰かと約束をするわけでもなく、連絡をするでもなく。
◇アングレーム
アングレームを選んだのは、そこがイラストレーターのイザベル・ボワノさんが暮らされている町で、『パリジェンヌの田舎暮らし』というそのNHKの番組の録画を飽きるほど見ているうちに、とても行ってみたくなったためです。
イザベルさんの丁寧で美しい暮らしの様子や、彼女が近隣のものづくりの作家に会いに行く様子は、何度見ても心惹かれるのでした。
パリは30年以上前だけど一度だけ行ったことがあったから、フランスの地方都市やそこへ行く風景も見てみたいと思いました。
アングレームはパリの南西に位置していて、高速列車で2時間ほど行ったところにある、中世の面影を残す丘の町です。距離的には東京から神戸に行くくらいでしょうか。

アングレームに着いて、予約したアパルトマンを探しながら石畳をコロコロとスーツケースを引きながら歩いていると、何か心惹かれる道に出ました。
素敵な場所だなと思っていると、ひろしさんが「この辺りだよ」と言いました。
アパルトマンの入り口には木の扉が付いており、暗証番号を押すパネルが付いています。
しかし…番号を押しても扉が開きません。そして、この建物でいいのか?
ドアの前で途方に暮れて佇んでいると、通りがかりの若者が声をかけてくれました。
「どうしたんです?」
「ドアが開かなくて」
「お隣の建物ですよ」
しかし、やはり鍵は開かない。
「電話してみたらどうですか」
しかし、私たちはフランスの電話番号を持っていません。
若者は自分のスマホで持ち主に電話をかけてくれました。
「鍵が開かなくて困ってるみたいなんだ…」
「でも、セキュリティ上、君に暗唱番号を教えるのはちょっと…」
「じゃ、どうする?」
「うーん(苦笑い)仕方ないなぁ」
多分、こんなやり取りの後、若者が暗証番号をメモしてくれました。
鍵は無事に開き、若者に何度もお礼を言って手を振って別れました。
狭い木の階段を登って、壁のキーボックスから鍵を取り出し扉を開くと、居心地のいい部屋が現れました。
(つづく)











