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2026-02-25

フランスとインド (八)

◇アムリタプリ

二年ぶりのアムリタプリ。
ピンクの建物が見えてくると懐かしさでいっぱいになりました。
ここは聖者アンマ(マータ・アムリターナンダマイー)のアシュラムです。
アンマは「抱きしめる聖者」と呼ばれていて、世界中を回って人々を抱擁して来ました。
また、教育の支援や災害時の救済活動、貧困層への援助、病院や寺院の設立など、社会奉仕活動も大規模に行われています。
「アンマ」はインドでは「お母さん」という意味。
アンマの抱擁(ダルシャン)を求めてたくさんの人がアシュラムにやってきます。信者でなくても滞在することができ、宗教に関係なく誰もがダルシャンを受けることができます。
私はアンマの信者ではないのですが、何かご縁があり、アンマにお会いするのは、東京に来られた時も含めて三回目です。

今回の宿泊棟はAmritan Jaliの11階。前回は3階だったので、高層階にちょっとワクワクしました。こちらに1週間部屋をお借りするのです。
エレベーターに乗ると、先に乗っている人が微笑みながら「ナマシヴァヤ」と声をかけてくれました。
Namah Shivaya これはサンスクリット語のマントラで、意味は「シヴァ神に礼拝します」という祈りの言葉。アシュラムではこのマントラが挨拶の言葉なのです。
11階に着くと、見晴らしの良さに圧倒されました。
東にはバックウォーターの水域があり西はアラビア海。その間を椰子の林が遠くに霞むまで広がっていて、アシュラムはその中にあります。向かい側に見える16階建てのビルは前回の宿泊棟のAmritan Darshan。その横にカーリーテンプルがあります。カーリーテンプルはカーリー女神を祀っている寺院ですが、とても華やかで、入り口には彩色された二頭のライオンの像があり、鮮やかなテラスが外に張り出していくつか配置されています。アシュラムの建物は物語に出てくるようなかわいい丸い筒型の家などあったりするのですが、ほとんどが柔らかいピンクに統一されています。

写真で見れば一目瞭然なのですが、アシュラムでは写真や動画の撮影は禁止されています。Wi-Fiもありません。だからスマホを使っている人の姿はあまり見られず、それが何かとてもほっとするのです。私もアシュラムにいる間はスマホを使うことはたまにしかありませんでした。

◇11階の部屋

私たちの部屋は西側に面しており、ドアを開けると窓から強烈な西日が差していました。
部屋は殺風景で、三台並んだベッドにはうっすら埃が被っています。
さて…またお掃除作戦です。着いて休む間も取らず掃除にかかります。
床を箒で掃いた後ぞうきんで水拭きし、ベッドは埃を払い、配置を変えます。二台はそれぞれの壁につけて、もう一台は向きを変えて廊下側の壁に寄せ、物が置ける台に。
太陽が直射している窓には、とりあえず天井の下の棚に放り込んであったゴザを洗濯バサミで取り付けました。
部屋は日差しも遮られ、さっぱりして、大分感じが良くなりました。

こうやって掃除していると、いつも思い浮かぶ情景があります。
宮崎駿さんの映画『魔女の宅急便』で、魔女のキキがパン屋さんの倉庫の上の部屋を借りて、そこを掃除する場面です。埃っぽかった部屋は掃除が終わると、さっぱりして居心地良くなり、気持ちのいい気が入ってきます。
そういえば、宮崎駿さんの映画にはお掃除の場面が良く出てきます。
自分の新しい始まりを迎えるような、新しい場所への感謝と敬意の儀式のような…
何かそんな象徴的な感じがします。

部屋はその後、開けられないと思っていた窓に紐が付いていて開けられることがわかったり、アシュラムのリサイクルで安く買えたピンクの布を廊下側の窓に付けたりして、どんどん居心地良くなっていきました。二年前に滞在した時に悩まされた蚊があまり入って来ないのもうれしいこと。
部屋にはヤモリの夫婦も同居していて、夜眠っていると時折キュキュキュッと鳴声が聞こえました。

◇天空

部屋の窓から見えるのはアラビア海だけ。そこを時折船が通っていく。
七階の物干し場に洗濯物を干しに、外階段を降りていきます。
細い鉄の手すりが付いているだけの階段はちょっとどきどき。下を見ると目が眩む。
壁の段差に止まっているカラスやハトがふわっと下に飛び去って行く。
ふわり…
何だか自分も一緒に飛べるみたい…
朝はバックウォーターから日が昇り、夕はアラビア海に沈んでいく。
水平線に近い太陽は赤くて透明で、チェリーの砂糖漬けみたい。

(つづく)

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